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地域の少子化に直面しつつも子供たちの未来を切り拓く、大分県教育庁の教育DXの取り組みを訊く

大分県教育庁が取り組む教育DX


 大分県教育庁が参画する文部科学省の「地域社会に根ざした高等学校の学校間連携・協働ネットワーク構築事業(COREハイスクール・ネットワーク構想)」の取り組みは、日本が今直面してる人口減少による学級数や生徒数の減少という問題を先取りし、DX(遠隔教育)で解決しようとする取り組みだ。 

 更に文部科学省は、高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)を立ち上げ、その中でも更にデジタル等成長分野を支える人材育成強化を推進している。これら一連の流れについてどう受け止めているか、大分県教育庁で事業推進を担当する釘宮氏にご意見を伺った。


大分県教育庁 高校教育課  主幹(総括) 釘宮隆之氏

 高等学校DX加速化推進事業について全国の高校に通達が来ている。この流れは非常にありがたいというのが率直な感想。主旨の一つがデジタル人材育成。中でも特に「遠隔教育」のことにかなり触れられている。

人口減少と加速する生徒数の減少予測

 大分県だけではなく、全国的に人口が急激に減少していくと予測されており、 一番人口減少の影響を受けるのは若年層の子供たち世代。大分県では、例えば今年(令和6年(2024年))の3月、中学校卒業者数は約1万人。このうち99% 近く が高校に進学する。平成21年(2009年)は高校進学者数約1万1500人程度だった。ところが今から15年後の2039年には高校進学者数は6800人と、減少率が12%から32%に急増するとの高い精度の予測がされている。

地方の教育現場で今後大きくなる課題

 このような状況下で実際に起こってくるのが地域の2極化だ。大分県の場合、県庁所在地かつ中心部である大分市と、それ以外の周辺地域の都市だ。その中心部には学校が複数校ある一方、周辺地域では地域によっては1校しか高校がない、ということが実際に起きている。
中心部では、高校が複数あるため生徒の学力層の分布は、卵が縦になった形である程度学力層が揃っている。ところが学校が少ない周辺地域では、分布の形は卵が横に向いていて、1クラスの中に多様な学力層(学力層が異なる)の中で授業を受けることになる。

 そうなると授業の内容は全員がある程度理解できるように作る必要がある。そのためどうしても学力の高い生徒にとって十分なレベルの授業が受けられないという状態が起きる。人口が減少する地域で学校が少なくなることによって、こういった課題が大きくなってゆき、今後はさらに拍車がかかってくる。

 人口が減少すると生徒はもちろん減少していく。そうすれば何がおこるか。現実の制度として生徒数に応じて教師もまた減少してゆかざるを得なくなる。そうなれば、特に小規模の高校の現場で教育サービスの質が低下していく。
 具体的には、例えば芸術系は音楽・美術・書道 が展開されている。これが、小規模校では教師がいないから書道の授業は開設できない。世界史はあるけど日本史は展開できない。ということが起こり得る。
 また、高校では同じ数学でも学力差に応じた授業(習熟度別授業)が基礎・標準・応用と分かれている。そもそも教師が少なければ学力差に応じたクラス設定などできない。そのため周辺地域に住めば住むほど教育サービスの質は低下していくことになる。

地域にしっかり学校を残し、教育レベルを維持する「手段」

 大分県が目指すのは「どの地域においても生徒自らの可能性を最大限に伸ばし多様で質の高い高校教育を提供できる環境整備」。県内のどこに住んでいるかによって受けられる教育に差が大きく出るという状況は絶対に改善しなくてはならない。
 しかし、既述のような状況でどうやって実現するのか。これに対し遠隔教育が活用できるのではないかと考えている。「遠隔教育を進めること」はあくまで手段。人口が減少し生徒が減少し、しかも教師数も減少してゆく地域の中にしっかり学校を残し、その学校の中で教育水準を維持していくための手段として遠隔教育を実際にやってゆく、というのが我々自治体の考えだし、文部科学省も言って頂いている所だと思う。

国の予算確保だけではなく、実際の運用上の法制度の課題も解消へ

 文部科学省と我々大分県教育庁が進めているCoreハイスクールネットワーク事業の展開の中で、我々含め13の地域で実証実験をしている。その結果を踏まえた上で制度改正を検討頂いている。このような方向性は、急速に人口が減少していく地方自治体の教育現場を管轄する立場としては非常にありがたい。今が非常に良いチャンスだととらえている。

 従来の遠隔教育というのは、送信側にも受信側にも教師と生徒がいる合同授業型だった。 さらに、コロナになったころから、外部の専門家などにオンラインで講師としてゲスト参加してもらう教師支援型が加わった。

 これに加え、新しい制度ではもう一歩踏み込み、配信側の先生と、受信側の教師が授業とは別の教科の教師であっても単位認定が制度上で認められるようになる。中教審の中間まとめではさらに踏み、受信側の環境について、一定の条件の下で教師以外の職員が教師の代行を行うことも可能、としている。(詳細は、中教審の「高等学校教育の在り方 中間まとめR5 8.31」に公表されている「遠隔授業における受信側の体制に係る要件の弾力化。」)

 さらに、遠隔授業や通信教育を活用した積極的な学校間連携のネットワークを構築するために、連携調整支援スタッフの配置と体制整備や 機材等の環境整備など、配信センターの環境整備と体制構築を推進している。

 つまり、国全体としては遠隔教育の課題も十分踏まえたうえで、環境構築や体制整備に関する予算計上だけでなく、実際に直面する運用上の課題を解決するための制度改正も整えようとしているのだ。

大分県教育庁のCoreハイスクールネットワーク事業のこの2年近くの取り組みにおける、これまでの成果や副次的な効果


農業高校から専門の国公立・有名私大への進学を実現


 現時点で成果のひとつとして大きく上げられているのは、普通科高校から農業が専門の高校に対して数学と英語の教科の一部配信をしているケース。これにより、今年度、国公立大学の農学部や有名私大への進学を実現することができた。

 背景としては、農業高校に、農業系の大学進学希望者がいたことだ。農業高校にももちろん数学や英語の教師もいるが、大学進学を支援する数学や英語の授業の強化が課題だった。

 そこで大学進学希望者に普通科高校から数学と英語の授業を配信することにした。それによって生徒たちの成績が実際に上がり、結果にもつながった。

地域で必要とされる高度な専門科目人材の育成への貢献


 さらにもう1つの成果は、専門科目の学校間連携での実施で、土木人材を育成する基盤が整ってきたことだと思う。

 大分県では土木系人材のニーズが高まっているが、その専門科目を教えられる先生が県内では非常に少ない。そのため遠隔授業で土木系の専門科目を教えられるのではないか?と強いリクエストもあり、現在測量の授業を専門の高校から他の高校に対して今年から配信を始めている。今年度の試みを受けて来年度から本格的に実施展開をすることになっている。
 

いわゆる「遠隔教育」にあったマイナスイメージを一新


 それだけではない。こうした試みによって、新たな形で副次的な効果が実現することとなった。これまでの「遠隔教育」と言われたときのイメージがガラッと変わったのだ。Neatの製品を導入して「想像していた遠隔授業と全然違う」と。

実物大の教師がクリアな音で語り掛ける
マニュアルが必要なく、日ごろの授業と同じ感覚で操作できる

授業に集中できる簡単さ


 遠隔教育の話をすると、どうしても大手予備校や学習アプリのオンデマンド型授業のようなイメージをされる。そのため、遠隔授業を実施する際に先生の手間が掛かったり、リアルと違って授業中に機器操作でまごまごしたり、遅延があったりとか、ネガティブな印象を関係者全員が強く持っていた。具体的には、配信側の先生たちからすると、まずマニュアルも研修も不要で普段の授業をするのとほとんど変わらない状況で遠隔授業を実施できる。

「対面授業と何も変わらない」音と映像のリアルさ


教育委員会の幹部の方々が受信側の高校の教室に見に行って「先生が目の前にいるよね」「目の前にいるのと同じように話しかけられるから対面授業と何も変わらないよね」と言われた。

 教壇(教室の前)に大型モニターが置いてあり、遠隔地にいる配信側の先生が実物大の大きさで映り、先生の声も非常にクリアに聞こえる。しかも黒板の字もかなりはっきり見える。「遠隔だが対面と変わらない」遠隔授業の様子を見た関係者全員が同じ感想だった。視察をして体感した方々が、遠隔教育の可能性を理解して、前述の専門科目の開設にもつながった。

 Neatを導入して2年程度だが、行政の立場の人間として、様々な地域に子どもたちがいて、その生活圏内にいたまま学びたいことを対面と同じような環境で学べる環境を、ノルウェーで最先端のビデオ技術を駆使して開発されたNeatのような製品を活用することで提供できることは非常に素晴らしいことだと感じている。
(NeatはAI技術を駆使し、参加者一人ひとりが、まるでその場に居るような表情やしぐさを伝え、明瞭で自然な音声のやりとりを可能にする最先端のビデオ・コミュニケーションデバイスを開発するメーカー。その先進性とシンプルな使いやすさからアメリカのホワイトハウスを始め、世界中で採用が進んでいる。 (詳細はhttps://neat-japan.com))

ホワイトハウスでも採用されている65インチディスプレイ一体型のNeat Board

これまでの取り組みを踏まえて、子供たちの未来開く遠隔教育の実施において、どのような点に留意するべきか?

 テクノロジーの選択については、機器を使う教師の「手間がかからない」、「いかに操作が少なく簡単なのか」ということを最重要視すべきだと思う。遠隔教育を進めている先進的な都道府県の方々ともいろいろお話をさせていただくが、遠隔教育で一番大事なところはテクノロジーより何よりも「教師の授業力」であることは言うまでもない。
 そこに対して、テクノロジーが少しでも負担となるような状況を作ってはいけない。まずNeatを導入して最初に驚かれたことは、何より手間がかからない。つまり教師が授業中に毎回何かを押すとか何か気にしてあれこれを設定しないといけないということがなく、必要なオペレーション操作がほとんどないところだった。   

 モニターの電源をオンにして、接続先の学校名をタップするという2ステップで遠隔授業が始められる、 授業中何も機器をさわらないでいい。黒板を使って授業する教師にとっては何も今までの日々の授業と変わらない。何よりも年配の先生方に大変喜ばれている。

 遠隔教育は配信する教師がいかに授業に集中して子どもたちに向き合えるか、教師がテクノロジーの操作などが気にならないという環境を作っていくのが一番大事。行政機関から利用率を気にされることがあるが、普通に授業をやる感覚で遠隔授業を実施できるため、使用率は100%となっている。その点、我々がNeatを選択したことは極めて幸運であったと言える。

今後の遠隔教育の進化と地域における遠隔教育の意義

今後の遠隔教育の新しい可能性


 今直面している課題として、教師にはどうしても人事異動があるため、遠隔授業のノウハウが蓄積していかないという問題がある。そこで、遠隔授業のノウハウの蓄積が期待できる配信校のセンター化を検討している。また、遠隔授業の利点として授業内容の録画やデータ化ができるので、病欠しても授業を受けられるなど、本来の対面を超える学習環境が実現できる可能性がある。
 
 地域全体で人口が減少し、生徒が減少していく中で、教師も少なくなり学校における教育水準の担保が困難になってくる。このデメリットは授業だけではない。生徒たちの部活動もできなくなるという状況が生じてしまう。そのための現実的な解として、Neatのような最新テクノロジーを使うことで補完できるところもあるのではとも考えている。
 例えば、吹奏楽部などを実はオンラインで他校と一緒にやってもいいんじゃないか。文化的な部活動であれば十分可能性はあるのではないか。また、運動部にしても、テニスが上手くなりたい生徒に対して、遠隔で自分のフォームを録画して指導してもらうことなど、授業以外の活用も可能ではないかと。
 そういったことができるようになると、地域においても教育水準を担保した学校を存続させることができるのではないか。
 

子供たちの夢をあきらめさせない、持続可能な地域づくり


 人口減少による学校の統廃合で地域から学校がなくなっていくと、地域に元気がなくなっていく。元気が無いということは、最終的には地域の衰退につながる。何よりも高校までは地域の学校を残してほしいというのが住んでる方々の想い。そのような想いを大事にして、地域に住む子どもたちが遠隔教育で自らの可能性を最大限に伸ばし多様で質の高い高校教育を提供できる環境を整えていくことが、今後の人口減少社会における教育としては必ず必要になってくると考えている。

 人口減少自体の解決は簡単ではないが、我々としては、子どもたちに対して教育環境はしっかり整備していきたい。地域に住む子供たちが、居住地域による制約で質の高い教育を受けられず夢をあきらめたり、よりよい教育環境を求めて住居の移転や両親と離れて下宿をしなくてはならなかったりという環境はどうしても避けたい。せっかく生まれ育った地域があるのだから、1時間半2時間かかって中心部の学校行くよりも20分行ったところに、地域の人々に囲まれながら、そこで自分の夢へ向かって実現できる教育を受けられる教育環境が理想だと思う。

大分県教育庁様の事例はこちらからご覧ください。


Neat Bar Pro 画像をクリックすると製品紹介ページに遷移します。

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